DATE 2009. 3. 8 NO .



 ――このままひとりぼっち、置き去りにする事だけは耐え難くて。



「ごめん…ごめんな……」

 久しぶりに立ち寄った俺を待っていたのは、
 変わらないままのレイチェル。
 それから枯れて見る影もなく変色した、花。

 燃えるような紅だったはずなのに。
 俺の代わりにレイチェルの傍に在るはずだったのに。

 ……当たり前だ。
 花がいつしか枯れてしまうのは、当たり前の事だ。
 それくらい俺にだって、わかる。頭ではそう考えている。

 けれど、許せない。
 心はそれを、許さない。
 もろく崩れる黒ずんだ茶色の残骸が。
 彼女を置いていってしまった時間の残滓が。

 かき集めて、少し力を入れれば容易く零れ落ちる。
 駄目だ、枯れるな。置いて行くな。
 いつまでもあのまま。鮮やかな色のままで。

「あ……ぇが…のまま…で……」

 矛盾したままぐるぐる、ぐるぐる……
 魂の秘宝を探しあてるまできっと、答えが見つかる事はない。
 俺と同じ、だな。
 前に進めない――いや、進みたくない。

 君を置き去りにして、前へと進めるはずがないんだ…!



 そうだ。
 造りものの花をたくさん用意しよう。
 今度は大丈夫。枯れない。
 変わらない時間を生き、続け――

「今度はひとりになんて…しないから……っ」

 触れても、抱きしめても、応えはない。
 ただ俺が、壊れてしまうんじゃないかという恐怖に襲われるだけ。
 色褪せる事なく絹糸のようにさらさらと流れる髪も。
 ほんのり色づいたままの頬も、華奢な指先を彩る桜貝のような爪も。
 あの、笑顔も。

 全部……全部、そのままに。
 今度は守ってみせるから。






 全てがまた始まるその時には、造りものなんかじゃない、本物の花を贈ろう。
 一緒に前に踏み出す、一輪を。

 その時までどうか。
 待っていて、欲しいんだ。







≪あとがき≫
 みえさんのTOP絵から降りてきたロクレイ……というか、ロック。
 オペラの花束かセリス待ちかと思いきや、「レイチェルの周りのあれ」とか言うからだよ。だからこんなに暗いんだよ(責任転嫁)。
 ロックがやばい! と思って頂けたなら本望ですとも。
 リターナーで捌け口を見つけて、王様と友達になって、それからティナとセリスに出会うんだと思うので。…あれ、誰か一人抜けた?←
 カイエンの造花も、象徴的だなぁと思います。



 あなたの泣きそうな……それでも素敵な、笑顔。
 それを瞼裏に焼きつけて、私はゆく。
 あなたは、歩きだす。





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